東京地方裁判所 平成11年(ワ)5322号 判決 2000年2月25日
原告
株式会社なとり
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
田中恒朗
同
西川茂
被告
株式会社道南冷蔵
右代表者代表取締役
B
被告
C
被告ら訴訟代理人弁護士
川端和治
同
和根﨑直樹
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一請求
一 被告らは、第三者に対し、別紙陳述目録記載の事実を告知し、又は流布してはならない。
二 被告らは、原告に対し、各自金二九五五万二〇〇〇円及び内金二四五五万二〇〇〇円に対する平成一一年三月二四日から、内金五〇〇万円に対する同年八月一二日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告は、海産物及び畜産物加工食品の製造販売を目的とする株式会社である。
(二) 被告株式会社道南冷蔵(以下「被告会社」という。)は、水産食品の加工及び販売等を目的とする株式会社である。
被告C(以下「被告C」という。)は、原告の従業員であったが、平成九年二月二一日に原告を退職し、その後、被告会社に就職し、現在は被告会社の取締役営業部長の職にある。
2(一) 原告と被告会社は、競争関係にある。
(二) 被告Cは、平成九年八月初めころから、次の各店舗において、仕入れ担当者らに対し、別紙陳述目録記載のような、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知をした。
長野市所在のスーパー「マツヤ」東京都板橋区所在のスーパー「松坂屋ストア高島平店」茨城県常陸大田市所在のスーパー「かわねや」埼玉県飯能市所在のスーパー「バリュープライス」甲府市所在のスーパー「オギノ」富山市所在のコンビニエンスストア「ホットスパー」東京都大田区所在のコンビニエンスストア「パンプキン」
(三) 被告Cの右行為は、不正競争防止法二条一項一三号に該当する行為であるところ、右行為により、原告の売上げは次のとおり減少した。
(1) 原告の右「マツヤ」に対する平成八年一二月から平成九年一一月までの一年間のイカ製品の売上高は二三三五万三〇〇〇円であったが、右行為後の同年一二月から平成一〇年一一月までの一年間の売上高は六二一万九〇〇〇円であった。
(2) 原告の右「松坂屋ストア高島平店」に対する平成九年七月から平成一〇年一月までの七か月間のイカ製品の売上高は一四九万円であったが、右行為後の同年七月から平成一一年一月までの七か月間の売上高は五九万二〇〇〇円であった。
(3) 原告の右「かわねや」に対する平成九年一月から同年一二月までの一年間のイカ製品の売上高は七八六万四〇〇〇円であったが、右行為後の平成一〇年一月から同年一二月までの一年間の売上高は六三六万六〇〇〇円であった。
(4) 原告の右「バリュープライス」に対する右行為前一年間のイカ製品の売上高は二二〇万六〇〇〇円であったが、右行為後の一年間の売上高は一三三万三〇〇〇円であった。
(5) 原告の右「オギノ」に対する右行為前の一年間のイカ製品の売上高は一〇七二万八〇〇〇円であったが、右行為後の一年間の売上高は九四一万三〇〇〇円であった。
(6) 原告の右「ホットスパー」に対する右行為前の一年間のイカ製品の売上高は二八五〇万四〇〇〇円であったが、右行為後の一年間の売上高は二三八三万四〇〇〇円であった。
(7) 原告の右「パンプキン」に対する右行為前の一年間のイカ製品の売上高は一二三一万三〇〇〇円であったが、右行為後の一年間の売上高は四八六万一〇〇〇円であった。
したがって、右減少額の合計である三三八四万円の粗利三〇パーセントに相当する一〇一五万二〇〇〇円が、原告の損害となる。
3(一) 被告Cは、被告会社の意を受けて、原告の従業員であったD、Eを引き抜くべく、同人らに、原告を退職して被告会社に就職するよう勧誘したところ、右Dは平成九年二月一五日に、右Eは同年三月一九日にそれぞれ原告を退職し、その後被告会社に雇用された。
また、被告Cは、被告会社に就職後、原告の従業員のうち、平成一〇年四月四日にはF、同年九月一五日にはG、平成一一年一月三一日にはHを原告から退職せしめ、同人らは、いずれも退職間もなく被告会社に雇用された。
(二) 以上のようにして被告Cに退職せしめられた原告の従業員は、いずれも、営業部門のベテラン従業員であって、各取引先の仕入れ担当者とも親密な関係にあった。
被告らは、原告の従業員が原告に永年勤務して蓄積した知識経験や販売先との人脈等を利用するために、原告の従業員を引き抜き、原告に不当な損害を及ぼしたものであって、被告らの右(一)の行為は、他人の成果にフリーライドする行為である。
したがって、被告らの右(一)の行為は、正当な競争の範囲を逸脱するものとして不法行為を構成する。
(三) 原告の平均的な営業担当者の年間平均売上高は六〇〇〇万円であるところ、その三パーセントに相当する一八〇万円が原告の雇用契約上の年間純利益とみられるので、原告は、右の各従業員の退職により、少なくとも二年分一四四〇万円の損害を被った。
4 原告は、被告らの前記2及び3の各行為により、営業上の信用及び人事管理に関する社会的信用を失墜し、名誉を毀損された。その損害額は、五〇〇万円を下らない。
5 よって、原告は、被告らに対し、不正競争防止法三条一項に基づき、右営業誹謗行為の差止めを求めるとともに、同法四条及び民法の不法行為の規定に基づき、金二九五五万二〇〇〇円及び内金二四五五万二〇〇〇円に対する平成一一年三月二四日から、内金五〇〇万円に対する同年八月一二日からいずれも支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2のうち、(一)は認めるが、その余は否認ないし争う。
3 同3のうち、原告主張に係る各従業員が原告主張の時期に原告を退職し、その後被告会社に就職したことは認めるが、その余は否認ないし争う。
4 同4は否認ないし争う。
理由
一 被告Cによる誹謗中傷行為の有無について
原告は、被告Cが、その取引先の店舗において、別紙陳述目録のような原告製品を誹謗中傷する発言をした旨主張する。
証拠(甲一四、三八、乙一、証人I、被告C)によると、被告Cが、被告会社の営業部長として、平成九年九月三〇日、長野市に本社のあるスーパー「マツヤ」に、被告会社の製品の売込みに行き、平成一〇年二月にも再度同店を訪れ、被告会社は、同年三月から同店にイカ製品を定期的に納入するようになったこと、同年二月ころから、原告の右マツヤに対するイカ製品の売上げが大きく減少したこと、原告の従業員であるIが、右マツヤのJ部長から、同年一〇月ころ、原告の製品の品質が悪い旨の指摘を受けたこと、以上の事実が認められるが、右事実から直ちに被告Cが右マツヤにおいて原告製品を誹謗中傷した事実を推認することはできず、他に、被告Cが右マツヤにおいて原告製品を誹謗中傷したことを認めるに足りる証拠はない。
また、原告の主張する店舗のうち、右マツヤ以外の店舗については、いずれも原告のイカ製品の売上げが減少している事実が認められる(甲一五ないし二〇、弁論の全趣旨)ものの、それのみで、被告Cが右各店舗において原告製品を誹謗中傷したことを推認することはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
以上によると、被告Cが原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したとは認められないから、原告の請求のうち、不正競争防止法に基づく請求は、いずれも理由がない。
二 被告らが原告の従業員を被告会社に勧誘したことの有無について原告の従業員のうち、Dが平成九年二月一五日に、Eが同年三月一九日に、Fが平成一〇年四月四日に、Gが同年九月一五日に、Hが平成一一年一月三一日に原告を退職し、いずれも退職後被告会社に雇用されたことは、当事者間に争いがない。
原告は、(1)被告Cが、被告会社の意を受けて、右D及びEに対して、原告を退職して被告会社に就職するよう勧誘した、(2)被告Cは、被告会社に就職後、右F、G及びHを原告から退職せしめたと主張する。
証拠(甲三六、証人K、同I)によると、右Eは、原告を退職する際、原告の従業員であるIに対し、被告Cと一緒にやる旨述べたこと、右Fは、原告を退職する際、Iに対し、被告会社に移る旨述べたこと、原告の従業員であるKは、被告Cから「今度うちに遊びに来い。」「そろそろなとりに見切りをつけたらどうだ。」と告げられたこと、以上の事実が認められるが、これらの事実から、直ちに被告Cが右Dら五名の原告従業員に対して、被告会社の意を受けて原告を退職して被告会社に就職するよう勧誘したとか、原告を退職せしめたと認めることはできず、他に、この事実を認めるに足りる証拠はない。
原告は、短期間に営業担当の従業員数人が相前後して競争関係にある会社に移った場合、不正競争の目的による引き抜き行為があったと事実上推定されるとも主張するが、原告に当時七九〇名程度の従業員がいたこと(甲二八、弁論の全趣旨)からすると、そのうち五名の従業員が、約二年の間に、被告に移ったからといって、その事実だけで右のようにいうことはできない。
その他、右Dら五名の原告従業員が原告を退職し、その後被告会社に雇用されたことについて、被告らに正当な競争の範囲を逸脱した違法な行為があったというべき事情は認められない。
そうすると、原告の請求のうち、不法行為に基づく請求は、理由がない。
三 以上によると、原告の請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 岡口基一)
<以下省略>